昌栄工業株式会社
ショウエイコウギョウ
[業種]大分類:製造業 中分類:金属製品製造業 小分類:暖房装置・配管工事用附属品製造業
プレスと絞りの独自技術によるホーロー製品の製造
昌栄工業が製造している自社ブランド「kaico(カイコ)」のホーロー製ドリップケトル。突き詰められたシンプルなデザイン、透明感のある白色の表面、天然白木のつまみ。そして、湯の残量にかかわらず常に静かに真下に湯が落ちるよう、最適な形状を徹底して追求した湯口。様々な生活用品を手掛けるデザイナーの小泉誠さんとのコラボレーションにより、日本の美しい琺瑯(ホーロー)を新しいカタチで蘇らせました。
2003年に誕生したkaicoは、現在ドリップケトルのほか鍋、ケトル、キャニスターなど20種弱の製品をラインアップしています。
同社は昭和22年(1947年)に金属プレス加工の工場として創業しました。最初はブリキの玩具や双眼鏡のパーツなどを作っていたそうですが、20年後、初めてプレスにより変形させることなくパイプに穴をあけることに成功し、国内で生産されるベビーカーのシャフトを製造しました。
その後、プレス絞り、へら絞りによるケトルなどのホーロー製品用容器の製造が多くなっていった同社は、70年代の終わり頃、へら絞りの自動機に使える独特な金型を作り出します。容器の口を絞るへら絞りでは、内側の金型が成形後に取り出せないことが自動化のネックでしたが、同社は分解可能な金型を作ることによって、スピニングマシンによる自動へら絞りを可能にしたのです。その結果、当時何十社とあったホーロー用製品メーカーは、同社を含めて数社に絞られたといいます。
こうした独自性のある先駆的な開発や工夫を生む文化は、今も変わらない同社の社風といえます。また、このホーロー製品、プレスと絞り、金型の技術が現在の同社につながっています。
ただし、その後調理具などのホーロー製品の生産はほとんど海外へ移ってしまい、国内メーカーは数社が残るのみ。そのため同社のホーロー関連の事業費率も全体からみると大きくはありません。それ以外は、同社が培った多様な金属加工技術や工夫と知恵に加え、外部の企業とも協力した『複合技術』による開発型の金属部品製造が占めています。製造品目は建築部品や建設系部材と機械部品などですが、ほかにはできない同社だから可能なものづくりに徹しています。
従来技術にとらわれず、当社にしかできないものを追求
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日本のホーローを守る
ホーロー家庭用品の生産がほとんど海外に依存される中、メイドインジャパンの繊細で美しいホーローを守る技術継承と商品開発を進めています。
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受け継がれた絞りの技術
多彩なプレス機、オートスピニング機とプレス技術を駆使した、立体容器ものの絞り加工とへら絞り加工での高い実績と技術力を有しています。
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当社でしかできないもの
プレス、絞り、切削、溶接、異形プレス・深絞りに加えて、金型の自社設計・製作技術を活かし、当社にしかできないものづくりを追求しています。
自分にしかできないものを、あきらめずに作り上げる
「私はもともと建築が好きで、カーテンウォールの会社で開発や設計をやっていたのです。実家の会社を継ぐ気はありませんでした」
昌栄工業の3代目社長である昌林賢一氏はそう言います。ところが30歳を過ぎた頃、同社の経営が悪化しているのに気が付いたのです。
「工場の3階に住んでいたのですが、日に日に機械の音がしなくなってきたのです。聞くと会社が危ないとわかって、すぐ勤務先に辞表を出しました」
バブル後の不況が続く1999年のことでした。急な申し出に勤務先に引き止められましたが、二足の草鞋では無理と決意を固めて、昌林氏は同社の立て直しに専念しました。当時同社の売り上げの8割はホーロー容器で、取引先も3社ほど。その注文が途絶えていました。そこで昌林氏は、ホーローにこだわらず顧客を開拓し取引先の数を増やすことにします。
「何でもやることと、顔の見える信頼できる人と取引すると決めて走り回りました。引き物、鋳物、加工品、何でも引き受けるし、樹脂加工もやれば作る場所も自社工場にこだわらず海外でもいいというスタンスです」
自社で作るだけでなく、作るためのコーディネートをするということです。建築の仕事でつくった人脈が大きな助けにもなり、やがて、「こんなものができないだろうか」という相談もくるようになり、仕事が広がり始めました。その中で昌林氏が、これだけは大切にすると決めたことがあり、それをこう語っています。
「まず大事にしたのは人を見ることです。その人と一緒にやりたいと、ピンとくるかどうか。仕事が進めば最後はお金の話になりますが、そこまで考えて一緒にやれるかどうかです。次に、これは他にはできない、自分にしかできないと思うものをコーディネートすること。そして、やると決めたら決してあきらめないことです」
ホーローへの想いとコーディネートでここまで来た
「海外の工場の現場にも入り込んで、職人の方とも食事をして、製品のクオリティを上げるために現場と一緒にトコトンやるのが私のやり方です」
昌林氏は、自身のコーディネーションをこう表現します。こうして、ある海外メーカーにしか製造できない巨大な搬送装置8台を、国内メーカーの新工場向けにカスタマイズして現場に据え付けるまでのコーディネートをしたり、ショーウインドウなどに使う鋳物の建築金具を、美しさにこだわって今までにない新製法で量産化するなど、ユニークな実績をあげてきました。
一方で昌林氏は、もちろん、同社の根幹にあるホーロー製品への思い入れを人一倍持っています。メイドインジャパンの美しいホーローを、今までにない商品化によって蘇らせる挑戦を重ねているのです。
2013年には、パリのインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」に白いホーローカップを出展し、従来のホーローにない美しさが称賛されています。
「釉薬の塗布と焼成時に製品をつるすために着けた針金の跡を、漆で小さく塗り隠した製品でした。これは伝統的な金継ぎという技を応用したもので、漆塗りの教室に通ってこの技術を習得して作品に用いました」(昌林氏)
また、ふつうホーロー容器のエッジには釉薬がつかないため黒いラインが出るのですが、同社のホーロー製品はエッジまできれいに仕上がっていて、これも高く評価されています。さらに、隠れた独自技術として“継ぎ目内部応力プレス”があります。これは、ケトルの注ぎ首の背中にある継ぎ目で、広がろうとするのでなく、内側に丸まろうとする応力を生じさせてぴたりと合わせるプレス技術です。ほかにはできない独自技術といいます。
そして2003年、新しいホーローのためのブランド「kaico」を、製造、デザイン、流通の3社が共同して立ち上げました。デザインの美しさだけでなく、機能性にトコトンこだわって作られたホーロー容器シリーズが提供されています。
2017年には、台湾のデザイン事務所“BALANCE WU DESIGN”とのコラボレーションで、ドリップ用のポット「cupPot」を発表しました。コルクにくるまれたホーローのポットです。
「何を作るかでなく、何のために作るかをお互いに考えてできたものです。かつて台湾で盛んだったが今は衰退したコルク産業と、日本の絶滅危惧種となったホーローを残すためという試みになりました。3年かけて開発した商品です」
と昌林氏はこのユニークなホーロー製品を説明します。
こうして、ホーロー製品の製造事業と、その他の金属加工とコーディネート事業が並行して進んできた同社。今後の方向について、いま昌林氏は次のように考えています。
「今やっている仕事はこのまま続けていきますが、私はこれまで外で人に会っている時間が多かったので、もう一度会社に立ち戻って社員たちと一緒に、これからの当社の方向を考えていこうと思っています」
昨年、工場の入り口周りをリフォームし、社名の看板もKaicoのデザイナーに依頼して新しくしました。社員の皆さんとともに新しい昌栄工業をつくっていくという意気込みが感じられます。
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